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大阪地方裁判所 昭和34年(ワ)3997号 判決

原告 大西広美

被告 株式会社大阪相互銀行 当事者参加人 日本土地株式会社

主文

被告を債権者、原告を債務者とする神戸地方法務局所属公証人服部光文作成第一、五七一号債務弁済契約公正証書に基く強制執行はこれを許さない。

参加人の参加申出を却下する。

訴訟費用中、原、被告間に生じた分は被告の、参加によつて生じた分は参加人の、各負担とする。

本件について、当裁判所が昭和三四年七月一五日になした強制執行停止決定を認可する。

この判決は前項に限り、仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一項と同旨ならびに、訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、参加人の請求に対し、「参加人の請求を棄却する。参加によつて生じた訴訟費用は参加人の負担とする。」との判決を求め、参加人訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。原告及び被告は別紙目録〈省略〉記載の物件が参加人の所有であることを確認する。原告は参加人が右物件の競売代金を完納したときは同物件を引渡せ。参加によつて生じた訴訟費用は原、被告の負担とする。」との判決を求めた。

原告訴訟代理人は、請求の原因として、

一、原、被告間の請求の趣旨記載の公正証書は、訴外和田正義が原告ほか一名を連帯保証人として、昭和三一年七月一七日被告から金一九八、〇〇〇円を借受け、これを昭和三一年六月から昭和三二年二月まで毎月末、金二二、〇〇〇円ずつ分割して被告に支払う旨を約した債務弁済契約公正証書であるが、原告はかかる契約について連帯保証をしたことはなく、この公正証書は、和田が原告の実印を冒用して原告の委任状を偽造し、ほしいままに原告の印鑑証明書の交付を受けたうえ、これらを用いて作成したものであるから、本件公正証書は無効である。

二、かりに前項の主張が認められないとしても、本件債務については、すでに主債務者である訴外和田正義が、昭和三二年一一月一日被告に対し残債務の元利金および費用金一八二、九〇〇円を完済したので、原告の連帯保証債務も消滅した。

三、よつて原告は、原告の被告に対する前記連帯保証債務の存続を前提とする本件公正証書の執行力の排除を求めるため本訴請求に及んだ

と述べた。〈立証省略〉

被告訴訟代理人は答弁ならびに抗弁として、

(一)  原告の請求原因一、記載の事実のうち、原告主張のごとき本件公正証書が作成されたことは認めるが、その余の事実は否認する。被告は、前記契約の締結にさきだち被告の係員をして、昭和三一年五月一九日原告に面接させ、原告が訴外和田の右債務について連帯保証人となる意思があることを確認させたのであつて、本件公正証書は原告の意思に基いて作成されたものである。

(二)  原告の請求原因二、記載の事実は認める。

(三)  原告及び訴外和田は、被告を相手方として大阪簡易裁判所に借受金債務弁済方法調停の申立をなし、昭和三二年一一月一日調停成立したが、その調停条項には、原告が、本件公正証書に基く債務残額および遅延損害金ならびに強制執行費用合計金一八二、九〇〇円の支払義務を認める旨の記載がある。

この事実は原告が訴外和田の連帯保証人となることをあらかじめ承諾していたか、またはこれを追認したことを示すものである。

かりにそうでないとして、原、被告間に前記のごとき調停が成立している以上、和解に関する民法の規定の趣旨に従い、原告はもはや右調停条項に反する主張をなし得ないものであり、今さら本件公正証書の偽造を主張することは権利の濫用であり、禁反言の法理にも反する

(四)  また、右調停成立のさい、原告は被告に対し、こんご本件に関し被告には一切迷惑をかけないことを約する書面を差入れ、本件についての不服申立権を抛棄したから、本訴請求は失当である、

と述べ、参加人主張の参加の理由および請求原因に対し、

(五)  参加人の参加の理由後記(1) の事実は認める。

(六)  公正証書に基く強制執行においては、競売手続完結前に基本債権が消滅したときには、たとえ競落許可決定がなされていても競落人は所有権を取得しないから、参加人は本件物件の所有権を有しない、

と述べた。〈立証省略〉

参加人訴訟代理人は、参加の理由として、

(1)  参加人は、被告の申立てた本件公正証書に基く強制競売手続において本件物件を競落し、昭和三二年九月一三日競落許可決定を得、同決定は同月二〇日確定した。

(2)  よつて、参加人は本件物件の所有者となつたが、本件強制競売手続の執行が停止されているため、まだ競落代金の支払をおわつておらず、原、被告間の本件訴訟の結果、即ちその判決の反射的効力によつて本件物件の所有権を失なう立場にあり、かつ被告はすでに原告から元利金の支払をうけているので原告と馴合訴訟をするおそれがあり、かくては参加人の権利が害されることになるので民訴七一条により当事者双方を相手方として参加の申出をする、

と述べ、原告の請求原因事実に対する答弁および参加人の請求原因として、

(3)  原告の請求原因一、記載の事実については被告の主張(一)と同一の認否ならびに主張をする。

(4)  原告の請求原因二、記載の事実は争わないが、競落許可決定確定後におけるかかる弁済は、参加人の右手続における競落人としての地位ならびに本件物件の所有権取得になんら影響を及ぼさないから、原告の本訴請求は失当であり、参加人は、原告および被告に対し本件物件が参加人の所有に属することの確認と、原告に対し参加人が競落代金を支払つたときは右物件を参加人に引渡すことを求める、

と述べた。〈立証省略〉

理由

まず、本件参加の適否について判断する。

参加人は、被告が本件公正証書に基いて申立てた本件物件等の強制競売手続において、本件物件を競落し、その競落許可決定を得、同決定は確定したが、参加人においてまだ競落代金の支払をしていないため、本件訴訟の結果によりその権利を害される、と主張する。

一般に強制競売手続においては、競落物件の所有権は競落許可決定の確定とともに、競落人が再競売期日の三日前までに競落代金を支払わないことを解除条件として競落人に移転するものと解すべきであり、また確定した競落許可決定は、再審事由があるばあいのほかこれを取消すことはできないから、そのご執行債権の不存在または消滅を理由として当該強制執行を許さない旨の裁判がなされても、すでに確定した競落許可決定の効力、即ち競落人の所有権取得の効力になんらの影響を及ぼすものではなく、したがつて、競落人が、将来所有権の登記を取得するまで不動産差押の効力を持続させる必要上、競売開始決定を取消すこともできず、執行不許の裁判の効果として債権者は競落代金から弁済を受ける権利を失ない、ほかに配当要求債権者がないかぎり右代金は債務者に交付すべきものと解するのが相当である。(このように解することは、競売物件が債務者の所有に属しなかつたばあいには、競落許可決定が確定しても競落人は物件の所有権を取得しないと解することと矛盾するものではない。)

そして本件の如く競落許可決定確定後、競落代金支払前の段階においても、この間の事情はまつたく同様である。即ち競落許可決定確定後、競落代金支払期日前に執行債権の不存在または消滅を理由として強制執行を許さないとの裁判がなされた場合においても、執行裁判所は確定した競落許可決定に基いて競落代金支払期日の指定をなし、競落代金の受領をなすことができ、また、これをしなければならないと解すべきである。

ところで、参加人の主張によれば、すでに参加人に対する本件物件の競落許可決定は確定したのであるから、参加人がまだ競落代金の支払をしていないとしても、原、被告等の本訴の訴訟の結果は参加人の本件物件の所有権取得になんらの影響を及ぼさないのであつて、たとえ原、被告間において馴合訴訟がなされたとしても参加人の権利が害されることはない。したがつて、参加人の本件参加申出は参加の要件を欠き不適法であるから却下を免かれない。

そこで、原告の被告に対する請求について判断する。

まず原告は、本件公正証書は原告が訴外和田の連帯保証人となることを承諾したことがないのに、和田が原告の実印を冒用して作成した偽造のものであると主張するが、原告主張に沿う証人毛利民子の証言および原告本人尋問の結果は、成立に争のない乙第五号証、証人佐々木康雄の証言により成立を認める乙第二号証および証人和田正義、佐々木康雄の各証言にてらし、とうてい信ずることはできず、他に右事実を認定するに足る証拠はない。

次に原告の前記二、の弁済の主張については、当事者間に争いがない。

被告の前記(四)の主張について。その主張のような事実があるとしても、訴権の抛棄は許されないところであり、また本件債務名義の効力の存否について、現に被告に争う態度が見られる以上、本訴の利益がないともいえないから、この主張は採用できない。

そして右争いのない弁済の事実によれば、本件公正証書の執行力の排除を求める原告の請求は正当であつて、認容すべきものである。

よつて訴訟費用の負担について民訴第八九条、強制執行停止決定の認可および仮執行の宣言について同法第五六〇条、第五四八条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 杉山克彦)

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